医者とは医療とは。ひたすら問い続ける孤独な戦い
医者の実体。それはいまいち掴みにくく、医者以外の人にはわかりにくい状況だ。そんな閉鎖した舞台を切り裂き、白日の下にさらしたとでも言うべき作品が登場した。手がけるのは、海難救助をテーマ、に命をかけた状況と、そこでの心情を迫力ある描写で描いた「海猿」の佐藤秀峰。
超一流医学部を卒業したばかりの研修医・斉藤栄二郎。月給わずか3万8千円、労働時間16時間という過酷な研修の中で彼は1人の患者を任される。しかし結局その患者は死亡。この事件をきっかけに、担当医や病院の制度、生命の尊厳など様々な矛盾に直面し、彼の葛藤が始まった。
ストーリーの中で浮かび上がってくるのは、医者も人間であり、そしてこれは人間のドラマなんだということ。出てくる医者や患者はとても人間くさく、アクが強い。だからこそ物語が迫力をおびて訴えかけてきて、より主人公の視点に共感することができるのだろう。これは最後にすべてが解決される、さわやかな感動作ではない。しかし、泥臭く、無力で、無様な彼に、あたたかい希望を感じるはずだ。
医者のマンガというと真っ先に思い浮かぶのがブラックジャック。医療マンガの最高峰ともいえるブラックジャックに向けたオマージュ、というより挑戦でもあるように思う。
◇ ブラックジャックによろしく(1) 佐藤秀峰 講談
そこは双子の神様と人間と精霊がなかよく住んでいる小さな南の島。太陽と月の双子の神様が島で過ごす毎日は、不思議で、とても優しくて、「フフっ」とつい頬がゆるむ。さらさらって読めて、さわやかな読後感がある一話読み切りもの。(N)(A/) | |
◇ ティンク☆ティンク(1) 松本花 新書館
サンゴの化石ばかりを研究している老教授が偶然見つけた恐竜の化石。この不自然な発見は犯罪か、それとも…。学芸員とフリーライターがその謎に迫る表題作「シーラカンス・デイズ」をはじめ、“ちょっといい話”が6作品収められた短編集。(S)(A/) | |
◇ シーラカンスデイズ 堤芳貞 少年画報社
主人公ゆーじの、一本線で描かれる細目が印象的だった「いいひと。」。その「脇役」であった3人の過去・未来を追った番外編が登場した。主人公以外の人物にも、当然、様々なドラマがある。世界は広がりを増し、実在するような気がしてきた。(A)
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◇ さよなら、パパ。 高橋しん 小学館
「なんとなく満たされない」そんな気持ちを抱える女性たちの恋を描く短編集。一遍づつ違った女性の視点から見えるのは、何かにぼかされたフィルター越しではなく、飾り気のない素の恋愛。痛いけれど、この前向きな強さはうらやましいかも。(N)
◇ 小さな恋の物語 安彦麻理絵 祥伝社
ワールドカップの便乗サッカーマンガが増殖。その一つかと思ってたら、いい感じに力が抜けた青春ものだった。しかし熱血しなくて、クールにも決めないドタバタ系。クセのあるキャラクターたちを小ネタを挟みつつ描くとぼけた味がいい。(N)
◇ ササメケ(1) ゴツボ×リュウジ 角川書店
初対面の女性に対し「あなたは音楽教師ですね。専攻は…ピアノ?」とホームズばりの推理を見せ、見事ハズしてしまう推理ノイローゼぎみの探偵・妻木が主人公。街のちょっとした事件を、たまーに当たるその推理力でどうにか解決していく。(S)(A/) | |
◇ ああ探偵事務所 関崎俊三 白泉社
「無限の住人」ファンはそのギャップに驚くこと必至の、おバカな大学生たちによる恋愛コメディ。ストーリーの大部分は本編の流れを遮るムチャなギャグでオトしまくが、肝心な所では切ないシリアスでキメる。笑いと泣きを両方味わいたい人に。(A)
◇ おひっこし 竹易てあし漫画全集 沙村広明 講談社
婦警と言っても普通の女の子・くるみが、屋敷から一歩も外に出られない天才警視から携帯電話で指示を受け、残虐な連続殺人事件に挑む。「ボーン・コレクター」と同じような設定だが、天才警視にも謎が多く、物語はさらに深みをみせそうだ。(S)
◇ リモート 原作/天樹征丸 漫画/こしばてつや 講談社