バースデイ・ストーリーズ

バースデイ・ストーリーズ

この感じは、あの日の感じに似ている
 その正体が何かいつも考えるのだが、分かったためしがない。本を開くたび、背筋がすっと伸びるような、襟を正したくなるような。「厳か」とでも呼びたい、少し特別な気持ちがする。それは彼の文体がそうさせるのかもしれないし、漂う雰囲気が独特だからかもしれない。でも、それ以上の何かがある気がしてしまうのだ。そして、それが何かは分からない。村上春樹。なんとも不思議な作家である。  彼の小説なら何冊か読んだことがあった自分だが、恥ずかしながら編訳した作品を読むのはこれが初めてだった。バースデイ・ストーリーズ。誕生日を扱った作品を自らが編纂し、翻訳した12からなる物語もまた、凛としたあの空気が支配し、特別な気持ちにさせた。結論から言ってしまうと、その空気の正体は今回も分からずじまい。だが、ある状況で味わった空気と似ていることに気がつく。1年に1度、誰にでも訪れる少し特別な日…そう、誕生日である。自分が生まれた日を意識した時に沸き上がる、少し神聖な気持ち。心地よく張りつめたその空気によく似ている気がしたのだ。上質な文章を描く作家と、誕生日という特別な日の組み合わせ。“神聖なコラボレーション”とでも呼びたくなるようなこの本、誕生日を迎えるたびに、読み返したくなる予感がした。(F)

 ◇ バースデイ・ストーリーズ 村上春樹編訳 中央公論新社



スカートをはいた少年―こうして私はボクになった

スカートをはいた少年―こうして私はボクになった

「自分は男なのに体は女である」という性同一性障害を抱えてきた筆者。世間に事実をカミングアウトし、手術で男に生まれ変わるまで、39年に及んだ戦いの日々が綴られる。自分が何者かを知り、そのすべてを受け入れる姿は強く、ただ美しい。(F)

 ◇ スカートをはいた少年 −こうして私はボクになった− 安藤大将 ブックマン社



大槻ケンヂのザ・対談 猫対犬

大槻ケンヂのザ・対談 猫対犬

注目の若手アーティストとのトークバトル…と思っていたら、西条秀樹、果ては氷川きよしまで出てくる。巻頭ページは浅野忠信とバンドブーム話で盛り上がっちゃってるし。まあとにかく、そういう感じがこの人らしい、大槻ケンヂの最新対談集。(F)

 ◇ 大槻ケンヂのザ・対談 猫 対 犬 大槻ケンヂ ソニー・マガジンズ



a piece of cake

a piece of cake

自らの著作と共に、数々の本の装幀を手がけ高い評価を得ている著者。彼が次に挑んだのは、詩や小説、絵本にレシピ、マンガまで揃った“本を集めた本”だった。「本」という存在の可能性を、少しずつ、ちょっとだけ味わってみたいあなたに。(F)

 ◇ ア・ピース・オブ・ケーキ 吉田浩美 筑摩書房



またたきのあめ―君であろう僕であろう

またたきのあめ―君であろう僕であろう

限りなく“穏やか”な気持ちになるというのが読後感。自費出版から話題を呼び、ついに全国発売されることになった著者の処女詩集は、2人称ベースに人肌の温もりが感じられる珠玉の作品だ。哀しみを反面教師にした“生”の喜びがココにある。(W)

 ◇ またたきのあめ 一君であろう 僕であろう 日ノ本義男 同時代社



プレイ坊主―松本人志の人生相談

プレイ坊主―松本人志の人生相談

石原裕次郎など数々の大物が登場してきた「週刊プレイボーイ」人生相談にこの男が見参。社会問題、日常の疑問、恋の悩みまでとにかく答えまくる。おなじみの暴走っぷりを強烈に楽しみながら、これほど役立たない人生相談もほかにないと確信。(F)

 ◇ プレイ坊主 松本人志 集英社



小さなスナック

小さなスナック

人気イラストレーターとして活躍するリリー・フランキーを、昨年6月に急患した消しゴム作家・ナンシー関が迎え撃つ。読むほどにコラムニストとしての2人の才能に驚く、極上の対談集。もうこの組み合わせが実現できないのは残念すぎる。(F)

 ◇ 小さなスナック ナンシー関リリー・フランキー 文藝春秋



劇場の神様

劇場の神様

青春のほろ苦さと愛しさがいっぱいのエッセイも良いが、小説もあなどれない。「ようやく自分自身が読みたかった小説が書けた」と語る原田氏、久々の作品集。衝撃はないけれど、何気ない日常に優しく寄り添うような、丁寧な短篇が揃ってます。(F)

 ◇ 劇場の神様 原田宗典 新潮社



羊のセルマ

羊のセルマ

「幸せって、なんですか?」「もっとお金があったなら、何をしますか?」こう聞かれた羊のセルマは、静かに答えた…。本国ドイツでのベストセラーだけにとどまらず、世界中で大反響となった絵本。わずか数ページに詰まった、哲学を堪能して。(F)

 ◇ 羊のセルマ ユッタ・バウアー二見書房